民事再生手続の成功率

民事再生手続の成功率

こんな記事がありました。果たして本当か、検討してみましょう。
「民事再生法」適用企業 生存率26.7%、「再建型」が有名無実に
東京商工リサーチは、2000年4月1日~2022年12月31日までに負債1,000万円以上を抱え民事再生法の適用を受けた1万963社のうち、個人企業等を除く7,988社を追跡調査した。同一企業で事業継続が確認されたのは、26.7%(2,133社)と4分の1にとどまった。
さて、この「事業継続」の「確認方法」は、「同一企業での事業継続の有無」を測定したものです。
スポンサーがつき、事業譲渡されて営業が継続しているものは含まれません。

例えば、私が関与した(最後の清算人でもあります)リーマンブラザーズ証券は、この記事では「消滅」に区分されています。

確かに、法人としてのリーマンブラザーズ証券は消滅しました。しかし、同社の主要事業は再生手続申立後すぐに、別の証券会社に事業譲渡されました(ニュースにもなっています)。また、他の事業も再生手続の中で譲渡され、それぞれの譲渡先で事業は継続しています。

これは憂うべき事ではありません。民事再生手続を利用することを破産を免れ、事業は継続しています(さらには、同社は一般再生債権に対し、95%の配当率を実現しています。)。

そして、昨今の民事再生はスポンサー型のほうが多く、6~7割がスポンサー型であり、さらにその中の多くが、事業譲渡や会社分割によって事業が引き継がれ、もとの法人は清算するスキームが一般的に行われており、これは、"失敗"ではありません。事業は生きています。

この記事も決して"失敗"とは書かず、「消滅」という表現にしていますが、印象として失敗のように語られ、「私的整理が広がるなかで運用は曲がり角にきている。」という、ネガティブな方向性の結論を書いています。タイトルも「有名無実に」という用語で、あたかも民事再生手続が使えない法律であるかのごとくです。

民事再生法の運用が、最近は硬くなり、使い勝手が悪くなってきている、という批判もあり、私もそう感じることがありますが、決して、成功率が26%などということはありません。あまりにミスリーディングな記事といえるでしょう。

東京商工リサーチさんは、優秀な信用調査会社ですが、この記事は、再生手続を利用しようとする会社を躊躇させるのに十分なミスリーディングをしていると考えています。

もちろん、私自身が再生手続の専門家として活動していますから、一定のバイアスはあります。しかし、議論するならば、もっとニュートラルで、現実に即したデータで議論をしたいものだと考えます。

民事再生の成功率はこんなに低くありません。
そもそも「成功」の定義をきちんと議論したいものだと思います。
その上で、他の手続と平等な土俵で比較したいものだと思います。

記事の後段では、以下のように一応、私的整理と民事再生を比較し、民事再生のほうが選択肢としてよい場合もあるという文章はあります。
レピュテーションによる事業価値の毀損は避けるべきだが、私的整理で再建に伴うリストラや取引契約の見直しなどが頓挫すると、中長期的な企業価値は再生局面の初期に法的手続きを採っていた方が上回ることも想定される。
しかし、記事タイトル、論調の過半は、定義がおかしい「成功率」の用語を使用した、再生手続の成功率が低いことへの言及であり、フェアでない記事であると思います。

民事再生手続は、会社(法人格)を救済するための法律ではなく、その会社で執り行われている「事業」を救済する法律手続です。結果的に、会社(法人格)も救済することはありますが、それは本筋ではないのです。

だから法人格の「消滅」だけで、成否を判断すべきではないのです。

財産評定-民事再生手続での公認会計士の役割

通用する財産評定-民事再生手続での公認会計士の役割

民事再生手続においては、手続の開始決定時の財産評定を実施する必要があります。
この財産評定は、公認会計士であれば誰でもできるものではありません。

なぜなら、民事再生における財産評定は、破産を前提とした評価なので、破産した時にどのようなことが起きるかを理解しておく必要があるのです。

一般の公認会計士・税理士は、継続している会社の会計は得意ですが、破産局面に詳しい公認会計士はとても数が少ないのです。

全体を俯瞰して評定する。

財産の評定といっても、一定の幅があります。
その幅の中で、どういう理屈で評価するかを判断するためには、その再生スキームまで見据える必要があります。

再生スキームによって、この資産は低め、これは逆に高め、など、戦略的に評定する必要があります。もちろん、合理的な範囲内の話であって、無理な評価をすることではありません。

そうすると、破産時の状況に詳しいほか、再生スキームにも詳しい公認会計士である必要があります。

評定は評定のみで終わらない

全体俯瞰の必要性はもちろん、財産評定における資産評価は、担保権消滅請求や別除権解除の交渉、資産売却における最低基準を画するなど、様々な局面で、その評定された数字が用いられます。
それらを理解し、想定されるあらゆる場面に通用するように、財産を評定する必要がああるのです。

事業再生に慣れた公認会計士

企業再生の分野は、特殊な世界です。
我々は、素人会計士に依頼して苦労している案件をたくさんみてきています。そうした案件に後から介入して、物事をおさめたことも一度や二度ではありません。

ポジショントークになってしまいますが、我々は関与した事業がスムーズに再生していただくことを心の喜びとして業務をしています。
企業再生になれた公認会計士をお捜しであれば、お気軽にお声がけください。

財産評定の種類(民事再生、私的整理、会社更生)

 
企業再生、事業再生、倒産法制では、「財産評定」が必須となりますが、手続によって、評定の中身・方法が異なります。

財産を評定する意義

共通

どの手続にも共通する意義は、
  • 債務者(会社)の財政状態を正確に把握するため
というものです。

誰が把握するため、でしょうか?
会社自身、代表者(管財人も含む)はもちろん、債権者などの利害関係者に会社の財政状態を把握してただくためです。
再生計画案に賛成をいただくための数字の基礎として必須ということはもちろんですが、まずは、その手続を進めることについて、ご理解をいただくにも必要となります。

会社の財政状態を明らかにしないことには、その手続を選択する意味もわかりませんし、その選択が適切であるかどうかがわかりません。

財政状態が悪いからこそ、企業再生の手続を採用するわけですが、財政状態の悪さの程度や金額も様々であり、その程度に合わせた手続選択をする必要があり、それを関係者に理解していただく必要があります。

手続によって異なる意義

財産評定*1という用語も、手続によって意味、意義が異なる部分があります。
 
財産評定の意義の違い
民事再生会社更生・私的整理(準則型)私的整理(非準則型)
意義清算価値の把握会社帳簿の基礎・実質債務超過額の把握
財政状態を時価で把握する・債権者の権利変更の基準の把握
価値水準清算価値時価

*1 : 私的整理では正式用語として「財産評定」というものはありませんが、実態貸借対照表を作成することが、財産評定と同じものとして取り扱われます。

清算価値の把握

民事再生手続においては作成される臨時貸借対照表は、財産評定一つです。その基準は清算価値(処分価格)です。
一方で、会社更生、私的整理では、財産評定による貸借対照表とは別に、清算貸借対照表も作成されます。

即ち、民事再生においては、時価による貸借対照表は作成されないことになります。もっとも、清算価値の把握のためには、いったん時価を把握する必要はあるので、実態として時価による測定はするものの、正式な書類として提出されることはありません。

この点が、民事再生が手続き的に「軽い」と言われるところのひとつで、単一の「財産評定」によって、手続が進められます。

また、民事再生では会社法、税務の帳簿とは関係のないところで作成されますので、その点でも、会社法や税務の規定が及ばないから、柔軟な対応ができるようになっています。

逆に、会社更生、私的整理においても、清算価値保障原則は必要とされますので、時価による財産評定のほか、清算価値による清算貸借対照表が作成されます。

このように、同じ「財産評定」という用語でも、その中身が異なるので、注意が必要です。

いつの時点の財政状態を把握する必要があるのか。

事業を継続している企業の財政状態は、日々変化しますので、どこかの時点で区切る必要があります。

会計技術的には、ある時点での仮決算が必要となります。
手続によっては(特に私的整理では)、当該時点の選択の余地がある場合があり、直近決算や、直近の月次決算ベースのこともあります。

会社の決算書ではダメなのか。

会社法又は税務で定められている決算書は、そのまま財産評定としては機能しません。

手続上、改めて作成する必要があります。
監査法人等の会計監査を受けている場合には、ほとんど修正がない場合もありますが、それでも会計監査上の判断と、企業再生における財産評定上の判断は異なるものもあり、完全一致することはほとんどありません。
また、法的手続の場合には、会社の決算日、月次決算日とは異なる日付での作成が求められることが通常であり(偶然の一致はあり得る)、その時点修正も必要となります。

慣れた公認会計士を選任しましょう。

手続によって財産評定の意義も方法論も異なります。
私的整理は得意でも法的整理は苦手な人もいます。その逆もいます。

当事務所は、法的整理も私的整理も両方を理解する会計士が所属しています。
どうぞお気軽にお声がけください。

事業価値算定

事業価値が必要となる場面

  • 企業買収時
  • 企業売却時
  • 破産直前で、事業譲渡せざるをえない時
  • 破産管財人が事業譲渡を否認しようとする時、迷っている時
  • 金融機関に金融支援を依頼する時
  • 株価で争いのある時
事業価値を算出するのに特別な資格は必要ありません。
しかし、ビジネスを理解し、会計の仕組みを理解し、インカムアプローチの理論を根本から学んでいる公認会計士は、その場所の一番近くにいます。

事業価値の難しさ

事業の価値算定には、様々な方法があり、一義的に導き出せるものではありません。

一方で、DCF法などの手法そのものは難しくなく、前提のパラメータをおけば、少し訓練された人なら、数字をはじき出すことは難しくありません。

しかし、事業価値算定の難しさは、その数式にあるのではなく、事業の見立て、それにマッチしたモデルの選択、パラメータの置き方、事業計画の考え方、その策定の精度の見極めが難しいのです。

単なる数字合わせを事業価値としても説得力はありません。
前提おけば算出できる数字も、その前提の置き方がいい加減だと説得力を持ちません。

私たちは、取引交渉、裁判等の争いの中で、いかに説得的な事業価値算定を実施するかの研鑽を積んできました。

危機時の事業価値算定

会社の危機時、倒産時の事業価値は、平時の事業価値の考え方と大きく異なります。
私的整理と法的整理でも異なります。

・否認行為、詐害行為にならないような事業価値算定
・否認行為、詐害行為を認定するための事業価値算定

どちらも、企業価値理論だけではない、倒産手続の中での事業価値算定方法や考え方があります。

破産管財人、民事再生監督委員、会社更生手続調査委員

直前の事業譲渡が果たして、否認・詐害行為に当たるのか、迷われる場面も多いことと思います。

当事務所は、倒産時の事業譲渡について数多くの経験を有し、弁護士会等での事業価値に関する講師も賜っております。

ものになるかどうか、など柔らかい状況であっても、いや、そんな時こそ、どうぞ、お気軽にご相談ください。

会社経営者、会社側代理人、スポンサー側、事業引受側

危機時のいざ事業譲渡となると、その後に管財人らに、詐害行為や否認行為の指摘を受ける虞があり、なかなか決断が難しい時があろうかと思います。

当事務所では、後日の管財人調査に耐えうるだけのバリュエーションレポート作成も賜っております。

どうぞ、お気軽にご相談ください。

特殊な資産の算定

集合債権(小口貸付金)、不動産担保ローン、種類株式など、一般的ではないタイプの資産評価も実施しております。

すべてオーダーメイドで、目的に沿ったバリュエーションを行います。
どうぞ、お気軽にご相談ください。