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売上高を伸ばすには
-監査人でもできる、リアリティあるアドバイス-
2010/02/01
 
企業業績に底打ち感が出始めています。今生き残っている企業の多くは、昨年までの経済危機の過程で経費を絞れるだけ絞り込んだことでしょうから、今後の業績回復は、売上高の引き上げがカギとなります。

このコラムの読者の中には会計監査に従事している・しようとしているかたも少なくないと思いますが、この「売上をどう伸ばすか」に関連して、私の監査人時代に一つの転機となった「事件」がありましたのでご紹介したいと思います。それは、監査の現場に出て2~3年経った頃、クライアントとの間で引当金の計上不足が議論になったときのこと。
「会計士の先生は、利益減らすのはうまいけど、利益増やす話はしないネ。」
と言われてしまったのです。監査人は、会計処理をどちらかといえば保守的に見ようとするため、クライアントとの議論はいつも利益を抑える方向になりがちですが、皮肉とも本質ともとれるこの発言により、「保守的な発想だけではクライアントからの評価に限界がある」と強く気づかされ、その後、会計士に対するこのような評価をどうすれば打破できるか、より役に立つ会計士になるにはどうすればよいか、が私個人の重要なテーマとなりました。

企業利益を増やす方法は、言うまでもなく①収益を伸ばすことと②経費を減らす、効率化することの組み合わせです。このうち、監査プロセスにより関わりの多い②については、経費削減策や節税策に気を配り、気づいた点をクライアントと話し合うことである程度貢献できるのですが、より抜本的な増益策であるはずの①の売上高増加についてはなかなか有益なコメントが思いつきません。「監査は企業プロセスのほぼ全域をカバーしているはずなのに、なぜ気づくことは②ばかりで①がないのか?」という、このなかば思い上がった疑問に対する解は、民間企業に転職してようやく得られました。というのも、売上高を左右する要因は、監査プロセスとはおよそ縁遠い、以下のような要素が関係していることを身をもって理解したからです。

・自社商品に価値を認める潜在需要の多寡
・潜在需要を顕在化させるための広告やマーケティング
・自社のビジョンや自社商品に対するユーザ・消費者の認知・支持・信頼感
・競合商品との差別化、絶え間ない改良努力
・販売体制、販売担当者の自社および自社商品に対するプライドと商品知識
・直販部隊と販売パートナーの組み合わせ
・売上目標達成に対する強い信念・リーダーシップ
・販売実務の効率化・スピードアップ
・販売動向の把握とそれに対するタイムリーな対処
・売れない商品の見切り・撤退
・その他いろいろ・・・・

会計監査は時間との戦いであり、こういったことを気にしていては戦いに敗れかねない(?)ですから、監査の過程でこういった気づきがなかったのは致し方なかったのかもしれません。しかし、監査人の立場であっても、上記のすべてを網羅できなくても、売上増に貢献できる視点はあります。それはユーザ・消費者の視点です。自らがユーザ・消費者として、クライアントの企業ビジョンや商品に共感しているか(=ファンか)、競合商品よりよいか、買いたいか、どうであればより買いたいか。常日頃客観的に考え続け、クライアントと率直に語り合えば、それがクライアントにとって大いなる気づきにつながったり、売上増のきっかけになったりする可能性があるのです。監査人の立場であろうと、コンサルタントの立場になろうと、リアリティあるクライアントサービスの源泉が、クライアントを真摯に思い続ける気持ちにあることに、変わりはありません。
 
<佐藤桂 プロフィール>
佐藤桂事務所 代表
1964年生まれ。宮城県出身。東北大学経済学部卒。86年大手監査法人に入社、90年公認会計士登録。93年同法人ニューヨーク事務所に出向。96年監査法人トーマツへ転職。同年ソフトバンク(株)に出向、97年同社常勤監査役。2000年同社グループ会社取締役を経て、同社合併に伴い、03年ソフトバンクグループ会社管理本部本部長。07年から現職。
現在、ベクター(株)社外取締役、(株)カービュー社外監査役、ジーディーエス・ジャパン(株)監査役も兼務。