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円は高いのか?
佐藤桂事務所  佐藤 桂
2009/12/02
 
2009年11月27日、円相場は14年4ヶ月ぶりの1ドル84円台に急騰しました。サブプライムローン問題が表面化した2007年以来の円高もついにここまできたか、と天を仰いだのは私だけではなかったことと思います。輸出依存型の日本企業にとって、円高は大きな打撃。今後円高はさらに進むのでしょうか。

財務省の貿易統計によれば、日本の輸出先に占める中国・アジア圏の割合は、2009年2月以降毎月50%を超えています。これらの国々に対する輸出代金は円や米ドルで決済されることが多いようですが、その決済金額には、その後現地通貨で転売される輸出品の現地価格と現地通貨の価値が反映されるはずです。したがって、円の国際的な位置づけを計るには、米ドルとの関係だけでなく、あらゆる貿易相手国通貨との関係で総合的に捉えておく必要があります。この見方に役立つ便利な指標の一つに、普段見慣れない「実効為替レート指数」(日銀公表)があります。実効為替レート指数は、米ドル、中国元、ユーロなど、日本の主要輸出先15カ国の通貨に対する円の競争力を総合的に算定したものであり、「名目」と「実質」の両方がありますが、日本と相手国の物価変動率を加味した「実質実効為替レート指数」がよりよく実態を表しています。この実質実効為替レート指数とドル円レートの比較が下のグラフです。(なお、実質実効為替レート指数は1円当たりの外貨価格として算出されるので、これを逆数にして「1ドル○○円」表示のドル円レートと比較しやすくしてあります。また、変動率をわかりやすくするため、それぞれの2000年1月の値を100に置き換え、他の各月の値を相対化しました。)

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 このグラフによれば、米ドルは1985年9月のプラザ合意前後の大幅な急落後も、対円で長期的に緩やかに下落し続けており、特にエンロンやワールドコム等の不正会計事件が続発した2002年頃からの一方的な低落傾向が顕著です。これに対し、円の実質実効為替レートは赤と緑の線のいわばボックス圏内で動き、直近では過去20年余りのほぼ仲値に位置していて、多通貨との力関係ではむしろ安定しているように見えます。つまり、ドル安ではあるものの実は円高ではないということが、このグラフから読み取れます。第1回のコラムにも書きましたが、米国は長期間にわたり海外資金を無理に調達して消費に回し続けた結果、一方的に自国通貨を弱め続けました。今後、米国内の高失業率、消費不振、財政赤字拡大等の難題を解消するメドが立ち、米ドルに対する各国からの信認が回復するまで、長期的なドル安傾向は反転しないのではないでしょうか。

このような状況下、日本の輸出企業が自助努力で米ドル安の影響から身を守るには、米ドルに触れない(取引先と徹底的に交渉し、契約を円建か、米ドル以外の、先高感ある通貨建へ一部乗換える)、または米ドルリスクを中和化する(現地の独立採算化を強め、負債の調達と資産の運用を同じ決済通貨で行う)といった道を模索することになります。どちらも副作用があり簡単なことでもありませんが、こういった個別企業の自助努力を通じ、米ドルへの依存度を長期的に引き下げ調整する必要はありそうです。また、米側の事情でドル高が期待できない間に、日銀による長期的な金融緩和政策と、政府による成長戦略を伴った長期のデフレ対策により、円安を誘導して、国内の景気回復努力を本格化することが望まれます。
 
<佐藤桂 プロフィール>
佐藤桂事務所 代表
1964年生まれ。宮城県出身。東北大学経済学部卒。86年大手監査法人に入社、90年公認会計士登録。93年同法人ニューヨーク事務所に出向。96年監査法人トーマツへ転職。同年ソフトバンク(株)に出向、97年同社常勤監査役。2000年同社グループ会社取締役を経て、同社合併に伴い、03年ソフトバンクグループ会社管理本部本部長。07年から現職。
現在、ベクター(株)社外取締役、(株)カービュー社外監査役、ジーディーエス・ジャパン(株)監査役も兼務。