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選挙公約に説得力がないワケは?
- 企業理念とP/Lの観点から -
佐藤桂事務所  佐藤 桂
2009/07/31
 
 時期が時期なので、総選挙に関する考察をもう一つ。各党の公約(マニフェスト)が出揃いましたので、有権者としてその政策の良し悪しと、それを裏付ける実行力を推し測らなければなりませんが、それぞれピンとくる部分があるにはあるものの、全体を通じた説得力を感じさせる公約が一つもありません。なぜでしょう?

 公約は、企業経営に例えれば企業理念に当たります。従業員、株主だけでなく、顧客や金融機関その他の取引先、地域住民、行政機関等のあらゆる利害関係者(ステークホルダー)に対し、その企業が何を考え、何を目指すかをコトバで表したものです。その企業で働き、その企業に投資し、その企業と取引することの意義を定義した、企業力の源泉とも言えます。企業理念は各社各様ですが、私の好きな企業理念の一つが米国Johnson & Johnson社の“Our Credo”(「我が信条」)です。それは、”Our Credo”の重視するステークホルダー(顧客、従業員、地域社会、株主)の順序が、実は損益計算書とおおよそ同じ順(売上高、経費、税金、配当)で、素直にピンとくるからなんです!しかも、1943年に作られた”Our Credo”を守り続けたJohnson & Johnson社は、今や時価総額17兆円の世界的大企業に成長しました。

 “Our Credo”は言葉を尽くしてJohnson & Johnson社のあるべき姿を語りかけていますが、敢えて会計的な注釈を加えつつ要約すると:企業経営にとって一番大切なのは①顧客(売上高)です。収入をもたらす顧客なしに企業の存続はあり得ません。二番がその収入を生み出すための財・サービスを支える②従業員(原価・経費)です。従業員が快適に働くことは、商品の品質維持・向上、新技術・新製品の開発につながり、①顧客を捉えて放さない源泉になります。三番が③地域社会(税金)です。①・②の結果得られた利益の中から納税し、環境に尽くすことは、①顧客に同社製品を選好させ、②従業員に自信と誇りを与えます。四番が④株主(配当)。健全な企業経営の成果を配当することで、資本主義経済の一員として経営を継続できるのです。

 この順序で今の日本を見据えるならば、一番大切な課題は日本が誰に何を売るか、です。内需をどう拡大し、世界に何を輸出するか。日本の「売り」は技術なのか、環境なのか、ITなのか、文化なのか、何なのか。一時的な景気対策ではなく、長期的に日本のGDPを成長させるための国家戦略です。よって一番重視すべき対象は①国内外の消費者、企業・政府の購買部門となります。二番に重視すべき対象は日本の従業員ともいうべき②国民・労働者であり、その課題は雇用、福祉、年金、子育て支援と、その表裏をなす税制、運営の枠組みとなる地方分権といったところでしょうか。三番が③アジアや世界に対する貢献。ODA等の人的・資金的貢献、IMFや国連での活動、外交、防衛もここに含まれるでしょう。四番が財政再建です。健全経営の成果により剰余を生み出し、国債償還を進めて借金体質からの脱却を図ります。この対象は、将来世代の負担を正常化するという意味で、(やや飛躍的ですが)④将来世代と考えられます。




 各党の公約に説得力がないのは、集票を意識するあまり②だけが強調され、①、③、④が抜けたり曖昧だったりして、全体としてP/Lが成り立たない=経営が成り立たないことを直感させられるからです。公約が”Our Credo”、「各党の信条」を全体的な視点で語っていないことは残念です。特に、①の日本の「売り物」にしっかり焦点を当てることが、この国で生きる人々に自信を与えます。

 説得力のない公約を、”Our Credo”として力強くバランスのよい公約に躊躇なく改訂していけるか、各党の実行力を選挙戦の期間中見守りたいと思います。
 
<佐藤桂 プロフィール>
佐藤桂事務所 代表
1964年生まれ。宮城県出身。東北大学経済学部卒。86年大手監査法人に入社、90年公認会計士登録。93年同法人ニューヨーク事務所に出向。96年監査法人トーマツへ転職。同年ソフトバンク(株)に出向、97年同社常勤監査役。2000年同社グループ会社取締役を経て、同社合併に伴い、03年ソフトバンクグループ会社管理本部本部長。07年から現職。
現在、ベクター(株)社外取締役、(株)カービュー社外監査役、ジーディーエス・ジャパン(株)監査役も兼務。