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国のバランスシートの適時開示が日本の不安を取り除く?!
- 内部統制整備とIRの観点から -
佐藤桂事務所  佐藤 桂
2009/07/02
 
 総選挙が近づくにつれ、「財政再建」や「国債残高」といった言葉を頻繁に耳にする ようになりました。財務省は毎四半期末の国債・借入金・政府短期証券等の残高を適時開示しており、それによると平成21年3月末現在の国債等の残高は846兆円にのぼります。これを報道機関はよく「一人当たり約 660万円の借金」(総務省発表の2007年総人口127,771千人で割り算)、あるいは「GDPの1.6倍の借金」(内閣府発表の2009年第1四半期の年率換算実質GDP 519兆円で割り算)と言い換え、国民の将来不安を煽ります。でも、この言い方はちょっとヘン。財政を語るのに、財政状態の一部(負債)しか見ていないからです。財政状態といえばバランスシート。(貸方)の借金が多いことと、その返済原資である(借方)もそれなりにあることを同時に語らなければ、実態を見誤らせます。

 これに関して一番問題だと感じるのは、財務省の開示姿勢と内部統制です。財務省が 開示する「国の財務書類」は、驚くことに平成18年度版が最新版です。決算日(平成19年3月末)から開示日(平成20年8月)までに1年5ヶ月を要しているうえ、四半期開示もなく、今入手できる最新のバランスシートが2年3ヶ月も前のものなのです。民間の上場会社でさえ四半期決算の45日以内開示を懸命に実行しているのですから、800兆円もの巨額の資金調達をしている政府はなおのこと、国債残高の四半期開示ではなく、その裏付けとなるバランスシート全体を四半期開示し、国債保有者や国民に対する説明責任を果たすべきです。思うに、議会や国民に普段からフロー(収入と支出)の情報だけを提供し、バランスシートを適時開示してこなかったことこそ、「霞ヶ関の埋蔵金」などという怪しい用語が堂々と使われたり、「かんぽの宿」のような採算度外視の巨額投資や、社会保険庁の杜撰なデータ管理が長期間放置された元凶ではないでしょうか。政府・財務省は、国内最大の債券発行主体として、内部統制の整備に真剣に取り組み、バランスシート報告を抜本的に早期化する義務があると考えます。

 では、肝心のバランスシート(日本郵政公社等を連結しない「一般会計・特別会計」版)の中身ですが、平成19年3月末現在、国債等を含む総負債981兆円に対し、総資産が704兆円あり、このうち将来の換金が期待できない有形・無形固定資産178兆円を除いた525兆円を負債の返済原資に充てられるとすれば、456兆円が国民の将来負担と読み取れます。これでも十分巨額ですが、846兆円が丸々国民の将来負担ということではありません。そこで、財政健全化に向けた課題は2つに分けられます。①資産の手当のない456兆円の借金をどうまかなっていくか?②525兆円の資産を借金の返済原資としてどこまでアテにして良いか?



①まず資産の手当のない456兆円は、歳出削減と税収増で対応することになります。 このうち、歳出削減については、ただでさえ新規の国債発行をなかなかやめられない のですから、既得権益を抜本的にガラス張りに開示し、優先度の低い公共サービスを 止める・減らす・民営化する、調達原価・調達方法を徹底的に見直す、といった思い 切った決断を、世論を味方につけつつ、強いリーダーシップと行動力で推進しなけれ ばなりません。また、税収増については、課税ベースが広い消費税アップが避けられ ません。消費税なら、ものすごく簡便法的に考えて、民間最終消費支出約300兆円× 消費税率10%アップ=30兆円/年程度の増収が見込めます。これに対し、今後の景気 回復、GDPの成長を仮定しても、それに伴う法人税・個人所得税の税収増は、これま たものすごく簡便法的に考えてGDP 500兆円×経済成長率3%×税率30%=4.5兆円/年 に過ぎず、これだけでは456兆円の手当には遠く及ばないのです。

②次に、525兆円のうち、有価証券91兆円(米国債券を含む外貨証券82兆円、道路関 連債券7兆円など)、貸付金217兆円(地方公共団体67兆円、住宅金融公庫39兆円、都 市再生機構10兆円、高速道路保有・債務返済機構8兆円など)、出資金66兆円(97独 立行政法人20兆円、日本郵政公社10兆円、13特殊会社8兆円、など計232団体)などが 長期的にどう活用され、換金され、国債等の返済に充てられていくか、十分注視する 必要があります。目的と実態のハッキリしない投融資を増やしていないか。役割を終 えた団体を延命したり、権益温存のため、売れる資産の売却を止めていないか。日本 郵政(株)株式の一部売却の凍結案は、財政健全化の意思がないと表明しているようなも のです。

 財務省は、政府のバランスシートの作成・開示を民間会社並みに早期化し、国債発行 責任者である総理大臣・財務大臣が負債と資産の両方を含めた決算説明を四半期に一 度行い、財政健全化への道筋をハッキリ示すことで、国民が800兆円の負債を背負っ ているという誤った認識を正す努力を続ける必要があります。 こういった視点で総選挙のマニフェストを読めば、政党や候補者の財務センス、経営 センスがみえてくるのではないでしょうか?
 
<佐藤桂 プロフィール>
佐藤桂事務所 代表
1964年生まれ。宮城県出身。東北大学経済学部卒。86年大手監査法人に入社、90年公認会計士登録。93年同法人ニューヨーク事務所に出向。96年監査法人トーマツへ転職。同年ソフトバンク(株)に出向、97年同社常勤監査役。2000年同社グループ会社取締役を経て、同社合併に伴い、03年ソフトバンクグループ会社管理本部本部長。07年から現職。
現在、ベクター(株)社外取締役、(株)カービュー社外監査役、ジーディーエス・ジャパン(株)監査役も兼務。