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企業価値評価にダーウィンの目を
- 資本主義の変化に応じた価値評価の視点 -
佐藤桂事務所  佐藤 桂
2009/04/09
 
 前回に引き続き、企業評価にまつわる考察を。最高のクライアント・サービスを志す会計士は、常にクライアントの企業価値向上を強く意識しているものですが、そのような意識のベースとなる企業価値評価の視点が、経済が激変する中で変化しているように感じられるのです。

   「資本主義は前取り主義」と言われることがあります。事業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に引きなおして事業に値段をつけ、その金額を現金で受け取るかわりに、事業オーナーが事業の所有権(=株式)を手放す。株式市場に代表される金融市場は、事業の将来キャッシュフロー価値を手放して「現金前取り」する企業家・株主(売り手)と、それを取得して年々の配当・利息の収入を期待する投資家(買い手)が日々大量に交錯する場です。現実の市場では、将来キャッシュフロー以外のさまざまな要素が需給関係に影響を与えつつ、日々株価がついていきます。金融市場という「現金前取り」の場があるからこそ、企業家が巨額の事業資金を集めることもできるし、M&Aも容易に行える。「前取り主義」は、資本主義のダイナミズムそのものです。

 非上場株式の場合、この「前取り」価格を決める市場がないため、企業の特定の要素に着目して人為的に株価を算定する必要があり、その際DCF法(Discounted Cash Flow Method)に代表される企業評価手法が利用されます。DCFでは、3~5年程度先の業績予測(キャッシュフロー予測)を基に、成長への期待感や事業リスクを加味して企業価値を算定しますが、ここで使われる業績予測は、将来の事業環境の激変を果敢に読み込んだ、検証可能性の低い数値ではなく、過去業績の延長線に現在想定し得る範囲の将来変化を加味した、一見信憑性の高い数値であるケースがほとんどです。

 ところで、資本主義は100年に一度といわれる激変の只中にあります。金融危機以降、米国の旺盛な消費が急減したことをきっかけにモノが売れなくなり、昨日まで通用した技術、設備、人材が、今日急に価値を生む機会を失う、価値を生めなくなる光景が、世界中で日常化しました。経済の激変に合わせて自ら変化することのできない企業は、存続の危機に襲われています。反対に、自ら変化し、革新し続ける企業ほど、成功しているように見えます。今元気のいい企業、たとえば㈱ファーストリテイリングや㈱ニトリは、独自商品の開発・調達に継続的に注力することにより、消費者を惹き付ける新商品を次々打ち出していますし、消費者の超低価格志向への変化にもいち早く対応しているようです。進化論を唱えたダーウィンは、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものでも、最も頭のいいものでもなく、『変化に対応できる』生き物だ。(”It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent, but the one most responsive to change.” )」と語ったという説がありますが、この言葉は、変化できない企業がグローバル経済の中で生き残れない現代にも、そのまま当てはまります。いまや、「変化対応力」は企業の中核的価値と言えます。

 したがって、この「変化対応力」を企業評価になんとか反映したいのですが、評価の信憑性を損なわずに将来の激変を今の計算に織り込むのは実に難しい。皮肉なことに、むしろ変化対応力が乏しく本当は近い将来破綻するかもしれない企業に対し、その過去業績がプラスなら、DCFは積極的な事業価値を算定しがちです。しかし、変化対応のうまい経営陣が率いる、変化の仕組がビルトインされた企業の価値は、そうでない企業の価値と明らかに峻別されなければなりません。そのためには、まず、強い商品力や確固としたシェアにこだわり、追求し続ける心が組織に根付いているか、リスクを計りながら変化を牽引する強いリーダーシップが常に存在するか、といった変化対応力の源泉に注目する必要があります。変化の激しい時代、会計士には「ダーウィンの目」が求められているように思うのです。
 
<佐藤桂 プロフィール>
佐藤桂事務所 代表
1964年生まれ。宮城県出身。東北大学経済学部卒。86年大手監査法人に入社、90年公認会計士登録。93年同法人ニューヨーク事務所に出向。96年監査法人トーマツへ転職。同年ソフトバンク(株)に出向、97年同社常勤監査役。2000年同社グループ会社取締役を経て、同社合併に伴い、03年ソフトバンクグループ会社管理本部本部長。07年から現職。
現在、ベクター(株)社外取締役、(株)カービュー社外監査役、ジーディーエス・ジャパン(株)監査役も兼務。