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長引くPBR 1倍割れは何を意味するのか
-「負ののれん」への処方箋-
佐藤桂事務所  佐藤 桂
2009/02/24
 
 昨年9月の「リーマン・ショック」以降、東証一部の平均PBRが2003年以来約5年半ぶりの1倍割れとなり、その後さらに低下傾向が続いています。株式評価に関わる人間として平均PBR1倍割れはやはりショックです。PBR(株価純資産倍率(Price Book-value Ratio))とは、各上場企業の時価総額(=株価×発行済株式総数)をその直近年度末の純資産合計で割り算して求めます。「PBR=1」のとき時価総額と純資産合計が同額になり、設立仕立ての会社はほぼこの状態です。(「PBR=1」の株価は企業の解散価値を表す、という言い方をする人もいます。)これまで多くの起業家が、会社をPBR=1の状態から興し、収益力を高め、企業価値を大きく伸ばしてから上場し、株式を時価で株式市場に売却することで「創業者利潤」を実現してきました。PBR>1であればこそ、上場維持コストや被買収リスクを超えて上場企業が上場し続ける意義があるといえます。

 また、株式評価でよく使われる「純資産法」は、PBR=1を前提とした株価算定方法であり、これは数ある株価算定方式の中でも下限、アンカープライスとなる場合が多いのです。ですので、日本を代表する東証一部企業群の平均的な株価がアンカープライスを下回るとなれば、多くの未上場企業の「上場の夢」はかすみ、落胆が広がっていることと思います。

 それでは、平均PBR1倍割れはなぜ長引くのでしょうか?

 一つには、株式市場の需給の悪化です。米国を震源地とする金融危機の影響で、外国人投資家をはじめ多くの投資家の投資資金量とリスク許容度が急減し、株式の買い手が売り手に転じてしまい、需要が大幅に減退する一方、上場株式の数量は、自社株買いでわずかに減少した以外はマーケットに滞留しているため、需給バランスが崩れ、株式の流通価値が減少しています。

 しかし、もう一つ、平均PBR1倍割れを長引かせる、より本質的な背景があるように思います。

 PBR<1は、会計上は「負ののれん」の状態です。純資産100の会社の株式を90で買収する(このときPBR=0.9)とすれば、差額の10は「負ののれん」です。企業結合会計基準では、原因分析してもなお負ののれんが残れば、これを固定負債に計上し20年以内で償却するよう定めています。一般に、負ののれんが生じる最も大きな原因は①経常赤字です。買収直後から赤字が累積するとすれば、その分だけ買収価額を引き下げないと割が合いません。また、過剰在庫や、過剰設備あるいは低操業度・低効率の設備といった、②バランスシートの劣化があれば、将来の処分損や廃棄損が重荷になります。時価主義が浸透し、貸借対照表に粉飾がなくても、こういったバランスシートに潜在する問題は経営判断次第でなかなか顕在化せず、タイムリーに純資産に反映されるとは限りません。

 2月16日に発表された昨年9~12月期の日本のGDP成長率は▲12.7%(年率換算)と先進国の中でも突出して低く、長い間我が国の成長の原動力であった輸出が金融危機の影響で急減(対前期比▲13.9%)するなど、日本株式会社の収益力が急速に悪化しています。いわば売上高不況です。オイルショックのときのようなコストアップ不況とは性格が異なり、経費節減努力だけでは乗り切れません。また、売上高が崩れているため、輸出産業を中心に過剰在庫・過剰設備への対処も問題です。

 平均PBR1倍割れは、株式市場が日本株式会社に①新たな売上高の創出、商品・マーケットの再構築と、②資産リストラの徹底を催促し、産業構造を転換して成長路線を取り戻すことを求めて鳴らす警鐘なのかもしれません。
 
<佐藤桂 プロフィール>
佐藤桂事務所 代表
1964年生まれ。宮城県出身。東北大学経済学部卒。86年大手監査法人に入社、90年公認会計士登録。93年同法人ニューヨーク事務所に出向。96年監査法人トーマツへ転職。同年ソフトバンク(株)に出向、97年同社常勤監査役。2000年同社グループ会社取締役を経て、同社合併に伴い、03年ソフトバンクグループ会社管理本部本部長。07年から現職。
現在、ベクター(株)社外取締役、(株)カービュー社外監査役、ジーディーエス・ジャパン(株)監査役も兼務。